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映画『恋人たち』公開10周年記念リバイバル上映2025年10月30日

 思いがけず、『恋人たち』(2015年)公開10周年を記念して10月31日(金)からテアトル新宿にてリバイバル公開されることになった
 松竹ブロードキャスティング側からの最初の条件は、ワークショップで選んだ無名の出演者を使うこと。低予算、オリジナル作品の長編映画。この条件で引き受ける監督はどれくらいいるだろうか?。
 それから出演者のオーデションを経て、更にワークショップで絞り込む。全く未知数の出演者に何とかあたりを付け、そこから脚本執筆に入る。『ゼンタイ』の様に面白いエチュードを肉付けして形にするという手法は取れず、ゼロからの完全オリジナルとしてのスタートだ。全員アテ書きの脚本には8か月も掛かってしまった。

慌ただしく準備が始まる。前にも書いたが映画製作には思いがけない事が起こる。この時も、ありえない態度をとるスタッフがいたり、アテ書きしたベテラン俳優に出演を断られたりした。別に動揺はしなかった。低予算で無名の俳優が出演者のワークショップ映画と舐められることは予想していたことだからだ。
「持ち出しはしないから!」とイキってきたそのスタッフは直ぐに首にしたし、もう一人は現代医学でも解明不可能な難病になったと告げ飛んだ。
そんな時、この映画は命を持って動き始めたなと感じ返って安堵する。これらの人々は、映画そのものから弾かれた人間達なのだ。

並行して、撮影前のリハーサルを開始。案の定、主演に選んだ篠原篤には手こずった。
篠原篤は、九州訛りが強くて不器用で頑固。しかし、この30歳の無名の男を主役に選んだ以上、どうにかこの先、彼が俳優として身の証が立つようにしなければならない。彼には一貫して厳しく接する一方、制作陣に宣言した。
「この映画は、低予算、無名の俳優。ヒットしないし映画賞も獲らない。海外映画祭も行きません。しかし、篠原篤には新人賞を獲らせます。それでいいですか?」と。
松竹の深田プロデューサーは、「いいです」と返答しました。僕も0(ゼロ)になって作る覚悟を決めた。
僕自身、満身創痍の船出だった。『ぐるり~』からの我が身に起こった経緯は本連載を参照されたいが、『恋人たち』までの時間は一度完全に壊れた人生を少しづつ確認しながら作り直す時間だったように思う。
3人の主要人物一人、四宮のセリフは完全に僕の肉声である。

「今までずっとそんな風に思われてたの?。ずっと迷惑だったの?。知らないの俺だけだったの?。じゃさ、じゃさ、今まで一緒に酒飲んだり、卒業旅行に行ったり、いっぱい一緒にいたじゃん。何にも意味ないってことじゃん。」
これまでも僕自身が感じた個人的な動機を元に物語にしていったが、この『恋人たち』ほど個人的な映画もない。と思っていた。
しかし、完成してみるとその反応は圧倒的だった。「今の日本の空気を深く捉えている」とか「世界観が広い」だとか。最も個人的な作品を作ったはずと当の本人は思っているのだから、何故称賛されているのかしばらくは理解が出来なかった。

あれから10年。無名だった出演者の人生も少しは変わって今も俳優業を続けるに至っている。僕は大した生活の変化もなく老化の一途。これを書いている今も背中が痛くて仕方がない。
この厳しい現実を生きる主人公たちのドラマが当時の日本の現実を深く捉えていたのだとしたら、今はどうだろう?。今を生きる観客にはどう映るのだろうか?。
それが、とても気になっている。

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