2017年7月1日

東京番外地(百)

 まさか貧乏自慢になってましたら、お許しの程を。そんな気はサラサラございやせん。
 商業演劇の世界にも、ホント色々な役者がいて実に面白い。この世界は東映なんかと違って、皆、フリーで頑張っている。勿論それぞれに所謂事務所はあるのだが、大体舞台役者と云う者は、年間通してまあいくら頑張っても、稽古があるから毎月出られる訳じゃない。最高に忙しい役者でも年六本か七本だ。まあ、七本なんて稽古に参加に参加出来ないから、役なんて付かない。六本出られてる役者、こういう人は相当の腕自慢か、事務所の力か、世渡り上手か、因みに私なんかだと、バイトもあるし、まあ、下手な役者だし、まず年に三本位でバイトを止めて役者一本に絞っていきたい気持ちはあるが、仕送りはあるし、しかし本音の部分としては、役者一本で喰っていく自信がないのだな。仕送りという親孝行まがいの気持を大義にして己に云い訳ばかりの毎日でやり過ごしていた。健サン云われた首迄ドップリ泥水に浸かるという言葉が常に頭の隅にあるのだけど、自信が無い。もう二度と東京に出てきたばかりの頃の、あの何日もメシが喰えない状態はイヤだ!かといってなあ…面倒臭いからこのまま行こうてんで、真面目にバイトたまに舞台という生活を、続けましたわ。そんな悶々としていたある日、親父が手紙を寄越しました。
 「元気でやってるか、実はお母ンがあの世に行って、もう三郎よ!仕送りはいらんからな、お前も大変やったやろ、済まなんだなあ…」云々。

石倉三郎